Polmo Polpo/Like Hearts Swelling

Like Hearts Swellingトロントを拠点に活動するSandro PerriによるPolmo Polpo名義での最初のフル・アルバム。時間は46:56、5曲収録で、5曲目の"Like Hearts Swelling"はライブ音源になっています。本作はConstellationからのリリースで、多分にもれず彼も多作の人で、別名義や本名のSandro Perriでのリリース、他アーティストのリミックスを手がけたりなど、幅広く行っています。
全体にわたり、エレクトロニカの要領で配置された様々な生楽器が、どこか懐かしい色の憂いを帯びながら、重層的に鳴り響きます。そして、その抽象的ともいえる雄大なうねりを、M2"Requiem For A Fox"であればゆったりとしたスライドギターの音色が伸びやかに牽引し、次第に熱をもってくる曲自体と聴き手のリズムを刺激しながら、圧倒的な「癒合」とでもいうべき開放感へ向け、テンションを押し上げます。生音の波のなかへ、なんの違和もなく挿入されるあたたかなダンス・ビートがそこへ絡まり、いつのまにか聴き手は体の内側に灯るような、かわいらしい昂揚感を、きっと自分のなかに見つけることだと思います。
Constellationの他のバンドにも共通していえることですが、多作だからこそ、一作のなかで届けたいものが絞れ、一作品における沸点の置き方に無駄がないのだと思います。本作も、M1"Romeo Heart"の徐々に盛り上がるジェット・ノイズ+啼くようなストリングスの起伏がやがて晴れると、"Requiem For A Fox"で鳴らさられるおぼろげな胎動にそのままなだれこみ、情動的な、この盤におけるひとつの頂点をまずむかえます。つづいてタイトルからもしめやかな道行を連想させるM3"Farewell"の重苦しさとわずかな郷愁の入り交じった流れを通過し、M4"Sky Histoire"で躍動的といえるもうひとつの頂点にたどりつきます。"Requiem For A Fox"が静の昂揚ならば、"Sky Histoire"は多層のストリングスが刻むビートを背景に、寄せては返す波音のサンプリングと共にタンバリンや打楽器、金管楽器が輝きのうちに溶け合って響き、跳躍する静か、といえるような、ダンス、エレクトロともポストロック、オーケストラルポップとも違う、清新な高まりを見せてくれます。そして再びノイズへと移行してゆき、終ります。その劇的な終わりをM5"Like Hearts Swelling"が引継ぎ、不思議な丸まりをもったミニマルなフレーズに軋轢音のように他の楽器が薄く重なり、やがて作品自体を閉じます。全体のめりはりがしっかりしていて緩急自在にも意味があるからこそ、何度聴いてもけしてもたつくようなことがないのでしょう。
盛り上がり、といってもそれぞれにかなりコンパクトで、なかには緩いと思われる方もいるかも知れませんが、自分は、この、まぶたを閉じることでしか埋められないようなわずかでいて微細な温かみから、遥か見晴らす場所を包み込めるような、激しく、そしてやわらかな音響がとても好きです。
http://www.myspace.com/polmopolpo
Myspaceですが、残念ながら試聴はありません)
探しましたが、試聴できるところがほとんどないようです。気になった方は、AmazonHMVなどで、すこしではありますが聴いてみてください。