The One Up Downstairs/Self-Titled EP

The One Up Downstairs

The One Up DownstairsはCap’n Jazz解散後に、ドラマーであったMike Kinsellaを中心として結成された3ピースのロックバンドです。彼らの実に短いバンド史について、そのほとんどが、この後にMike Kinsellaが結成する素晴らしきバンドAmerican Footballに関心を持つ者の副次的な材料として存在していたに過ぎないと、多くの人は思うでしょう(もちろん、かなりの高い関心ではありましたが)。彼らバンドの詳しい経緯についてはPolyvinyl Recordのサイトに載せられていることを参照すればよいのですが、かいつまんで言えば、このEPは録音されたにも関わらずプレス前にバンドが解散を決定し、おかげで10年経った今日まで日の目を浴びることがなかったものです。バンドは解散後、ギタリストのDavid Johnsonを抜かしたMike Kinsella(Vo,Guitar,Bass)とSteve Lamos(dr)にSteve Holmes(Guitar)を加え、American Footballを結成するのですが、それはまた、次のエントリーで紹介したいと思います。
さて、ここに収録されているわずか3曲のみが、現存するThe One Up Downstairsの音源全てですが、その3曲において、彼らの魅力は(多少粗くとも)充分に発揮されているといえるでしょう。順を追っていけば、M1”Champagne”は、後半にかけて鳴らされる、ギターの単音フレーズによるゆっくりとしたループを際立たせるために、バンド全体で向きを合わせ、穏やかな空間をそこまでに作っていきます。Mike Kinsellaの歌はメインでありながら決して印象の中核を取らず、微細に流れる情景に、まるで体温をこめるかのような、独特な優しさをもって唄われます(これはまさに、現在活動中であるMike Kinsellaのソロ名義Owenの歌心にまで地続きの事柄でしょう)。単音フレーズのループが自然に背景へ溶け込んでいく、そういう意味では、この曲はAmerican Footballという一つの指向をもっていたバンドの音楽的雛形ともいえると思います。M2”Rememories”、オシャレな進行に沿って、軽快に、まるで跳ね回るように終始動き続けるリードギターが特徴的な曲です。American Footballにもポップな曲は存在しますが、ほとんどが多分に叙情性を含んでいるため、ボーカル、ドラム、ベースいずれもかなりあっけらかんと明るいこの曲はThe One Up Downstairsでしか聴けないものではないでしょうか。奔放な感じが曲全体をつらぬいていて、とても気持ちのいい曲です。最後にM3”Franco the Bull”ですが、この曲だけインストです。American Footballの3曲入りEPでも同様に3曲目にのみインストのナンバーを持ってきているのですが、何か意識してのことなのでしょうか。もしそうであれば、その試みは結果を出しているといえます。つまり、American Footballのインスト曲"Five Silent Miles"における、終着へ向かう物語のための美しい緊張感を余さずに描いたようなその境地に比べ、”Franco the Bull”はいささか起伏にかける構成と、平板な曲調、その意味で両者の間にはやはり隔たりがあるといえます。別段、そんな比較的な意味はないのかも知れませんが。
現在、このEPはダウンロード販売のみということで、Polyvinyl RecordにはiTunesのStoreへのリンクが張ってあります。そちらで試聴ができるので、iTunesを入れている方は聴いてみては。American Footballが未聴であれば、まずこちらから、というほどでもないと思いますが、もしAmerican Footballを気に入ったのであれば、さかのぼって手を出してみるのもいいかも知れません。幾分粗いMike Kinsellaの歌声も、今となっては貴重といえるでしょう。