Cap’n Jazz/Analphabetapolothology

Analphabetapolothology
Cap’n Jazzです。かっこいい、Cap’n Jazzです。
まずリズム隊の鋭角的なもたつきようがあって、それに重なるツインギターはさらに奔放にへこたれて、満を持してやってくるヴォーカルは最高級のテンションでぐだぐだに曲を叫び、歌います。相反する疾走感のもどかしさと高揚をみんなまとめて引き連れて、奇想的な曲構成のなかに、奇想そのものの歌詞をぶちまけて目の前を彼らは過ぎていきます。装甲板が全て削げた重戦車で爆走するような、意味のわからない爽快さがそこにはあって、意味深な曲題に明快な作品をいやと言うほど似合わせるその正体不明の説得力は、誰でもない、バンド解散後に、ここからではまだ想像もつかない音楽的経路をたどっていく、5人のメンバーそれぞれの個性的なプレイにあることを窺わせます。
彼らから繋がっていく多くのバンド、プロジェクトそれぞれに一度に焦点を当てることはとてもできないので、先ずは全ての根幹であるCap’n Jazzから紹介していきます。
このアルバム『Analphabetapolothology』は、1989年にシカゴで結成された、キンセラ兄弟の二人を含むエモ・パンクバンドCap’n Jazzの現在入手可能な唯一にして最後のリリース作品で、軒並み入手困難に陥っていた彼らのシングルやアルバム音源をまとめた、アーカイブ的なアルバムになっています。CD二枚に渡り収められている34の曲群は、どこを取っても素人臭いエモであると同時に、素人には真似のできない猛烈な性急さと熟達した思わせぶりの力を発揮していて、そこからは、エモ〜ポスト・パンクの街道裏をよれながら駆け抜ける彼らの魅力を存分に味わうことができます。
性急に走り抜けるような、といえば、1989年に傑作『ビザーロ』を発表したWedding presentがいますが、Cap’n Jazzは比べて、あまりに無軌道です。それは、バンド解散以降より顕著になっていくSam Zurickの独特なギタープレイ(最も、彼はここではBassを務めていますが)にも、ソロやJoan of arcで聴くことのできるしたたかな繊細さを持った歌声とは打って変わってここでは自在に叫び転げるTim Kinsellaのヴォーカルにも、実に顕著に表されているのではないでしょうか。そして、バンドの無軌道性をある意味で象徴するTimの詞世界は、『Analphabetapolothology』というアルバムタイトルからもわかるように(さらに云えば95年に発表された彼らのアルバム『Burritos, Inspiration Point, Fork Balloon Sports, Cards in the Spokes, Automatic Biographies.Kites, Kung Fu, Trophies, Banana Peels We've Slipped On, and Egg Shells We've Tippy Toed Over.』のタイトルからも)、詩的というには混沌に過ぎる、たくましく抽象的な想像力をバンドにぶつけているわけです。さすがに、統制されたWedding presentの楽曲の下で、フロントマンDavid Gedgeがそれらの語彙を通過させるのはいささか困難でしょう。
本作の内容に踏み込めば、Disc1はパンキッシュな精神が旺盛に出た、まさに10代といった激情と、軽やかに無駄ばかり、そんな身振りの凝縮です。"Boys kissing boys." "That VanGogh sky shrinks the city that shrinks me."といった不可解なイメージ群ばかりを選ばせる歌詞も印象的に、Shaggsよろしく素晴らしいへたれカバーの”Take on me”まで、様々な構成と大胆な抑揚を持ったラインナップになっています。歪んだギターがフェードインしてなだれ込んでくる、1曲目”Little League”の、こちらの体に無理やり鉤をつけて一気に引きずっていってしまうようなさわやかな暴力性は、何度聴いても損なわれることがありません。
変わってDisc2は、ジャケットの内側に記載されている詳細なディスコグラフィーを参照すればわかるように、ほとんどがコンピレーション、スプリットなどの企画盤のために録音された曲で構成されたいわゆるシングル・レアトラック集になっています。唯一のオリジナルアルバム『『Kites, Kung Fu, Trophies,〜』の全内容はDisc1に収められているため、Disc2はまとまりという面では確かに欠けていますが、今更何をか、です。冒頭響いてくるブラスの音はDisc1には見られなかったものでとても新鮮に聴こえるし、幾分ポストパンクな感じを増したベースラインに引かれて、入ってくる楽器・声それぞれの抑揚は奇妙に成長していて、Joan of arc、Make believeなどとはまた違った彼らの行く末を垣間見せるような曲が、こちらには詰まっています。
メンバーが10代の半ばに結成し、5年の熾烈な活動期間を俊足で終えた全く生粋のエモバンドである彼らは、後にほとんど同じメンバーでOwlsという、Cap’n Jazzからの大成長を見せるようなバンドを組むのですが、そこに至るまでにまだ幾つもの音楽的枝葉があり、驚くべきことに例外なくそのいずれもが素晴らしくかっこいいのです。ここでは、それらも追って紹介していければと思っています。

Link:
http://www.myspace.com/basilskite
http://www.myspace.com/capnjazz3
(どちらもCap’n JazzのMyspaceですが、公式ではなく有志によるものです)
 *追記 Myspaceへのアドレスの最後にこちらでスラッシュを付帯してしまっていたため、飛べなかったかと思います。直しました。
Cap'n Jazz - Wikipedia, the free encyclopedia
Interview with Tim Kinsella,January of 1997
(バンドについて、気になるであろう多くのことを語っています。)